系統の周波数維持に貢献する慣性力について

電力システムの周波数をコントロールする方法の概要については、前回の記事でご説明の通りですが、今回はその一つである「慣性力」についてご紹介いたします。普段あまり気が付かない発電設備の仕組みが学べるかもしれませんので是非読んでみてください!

まず「慣性力」という言葉ですが、これは動いているものを止めたときに生じる力のことです。例えば乗っている電車が急ブレーキをかけた時、前のめりによろけてしまいますね。このように動いているものは止められてもそのまま動こうとするわけですが、こういう力を慣性力と呼んでいます。ちなみに体重の重い人ほどよろけ方が大きいのは慣性力が重量(質量)に比例しているからです。

電力システム(系統)に接続されている同期発電機もこれと同じ動きをします。発電機には以下の図1のようにローターという重量物があります。蒸気タービンやガスタービンはこれに直結していますので、これらの回転する重量物も慣性に貢献します。

図1 発電機とローターの関係

このローターの回転数は、系統の周波数と同期しています。接続されている系統によりますが、東日本は周波数50Hz(ヘルツと読みます)エリアで、2極の発電機ですと1分間に3000回転(SI単位ではmin-1、非SI単位ではrpm(revolutions per minute)と呼ぶこともあります)、西日本は60Hzエリアで3600回転という速さで回っていて、回転運動エネルギー(慣性力)を保有しています(因みに、原子力発電所では4極の発電機を使用しており、回転数は前述の半分になります)。

「回転数が周波数と同期している」という意味はどういうことでしょうか。2極の発電機の場合、周波数0.1Hzあたり6回転で換算してみるとわかりやすいかもしれません。この場合、ローターの回転数は系統の周波数が50Hzの時は、3000回転ですが、周波数に変動があり、50.1Hzになった時は3006回転ですし、49.9Hzになった時は2994回転で回ることになるわけです。系統の周波数は基準とする50Hzや60Hzに対して、エリアによって違いはありますが、およそ±0.2Hz程度で運用するように定められています。

ちなみに、1分間に3000回転と言われてもピンと来ない方もいらっしゃるとおもいますが、1秒間に直すと50回転していることになります。さらに1回転する速さは百分の2秒に相当し、陸上競技で言えば世界記録になるかどうかの差と同じような時間感覚です。

このようなローターの回転数と系統の周波数の関係のことを「同期している」と表現し、一般に回転数と周波数の間の関係は以下のように定式化されています。

回転数(min-1) = (周波数(Hz)×60(s/min) ) ÷ (発電機の極数÷2)

系統には多くの発電機が接続されていて需要側の負荷に見合った電力を供給して周波数を維持しています。系統設備での予期せぬトラブルなどがあり、需要と供給のバランスが崩れて系統周波数が変動しようとすると同期発電機が持つ回転運動エネルギーを放出して系統周波数を維持しようとして需要に供給を瞬時にバランスさせようとします。これが慣性応答と呼ばれ、周波数の変動があったときに、最初に働いてくれる周波数を維持する機能になるわけです。図2のように周波数が低下した時にも、同じ系統内の別の発電機やタービンローターの慣性力が瞬時に回転トルクに姿を変えてくれるため系統の周波数の低下幅を小さくしてくれているのですね。

図2 慣性力が果たしている役割

太陽光発電や風力発電は、パワーコンディショナーを介した非同期接続電源と呼ばれ、基本的に系統に提供できる慣性力がなく、また、パワーコンディショナーで疑似慣性機能を持たせる技術も出てきてはいますが、現在のルールでは必須ではなく、補完できる慣性力も多くありません。今後、再生可能エネルギーを増やしていく際には系統の安定運用を目指す上での課題と言われています。

解決策として慣性力を系統に提供するため、例えばイギリスではフライホイールという大きな慣性力を有する回転機を導入するような取り組みが進んでいます。イギリスはフランス、オランダ、アイルランド、スウェーデンと系統が接続されていて、年間の電力消費量(308TWh)に対して、7%程度(22.4TWh)を輸入でまかなうことができています。この時、慣性力の確保は重要な要素となっています。

図3 イギリスの電力輸入割合(出所:Digest of UK Energy Statistics electricityより作成)

一方、日本の場合は他の国と電力系統が接続されていないこと、東西で周波数が異なることから、周波数安定性の課題がより深刻になる可能性も指摘されています。系統周波数安定化のために負荷調整が容易な火力発電所の存在が重視されると共に、系統慣性力の確保のために、廃止した火力発電所のタービンロータや同期発電機の慣性力を安価に活用する取り組み(同期調相機とフライホイールを組み合わせたシステム)が検討され始めています。所有されている設備も有効活用の可能性があるかもしれませんね。

いかがでしたでしょうか。引き続きお役立ち情報を発信してまいります。扱ってほしいテーマなどについてご意見・ご要望などのコメントを是非よろしくお願いいたします!

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